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二階建ての家に現在住んでいるのは進藤一樹一人だけ。父親は数年前に他界し、母親は皇国海軍中佐として駆逐艦『雷』の副艦長を勤めている。
だから、数分もの間、進藤が自室で暴れていても誰も助けにも来ないのだ。
“これは……何だよ……!”
振り下ろされる鈍痛と共に飛来する記憶。経験したことの無い戦場の風景、名前も知らない赤の他人を抱き締めている自分、咀嚼されるなか最後の願いを呟く陸軍大佐の軍服を来た進藤一樹の姿が脳裏を過る。
『貴方を――愛しています』
『オレの手を煩わせるなよ』
『私の知る限り、貴様が最強の兵士だ』
『たーいさ、稽古つけてくださいよー』
『余もお前と共に戦場に立ってみたかったぞ……』
『――これで、死ねるな……』
『一樹、好きだよ』
進藤、一樹さん、大佐、進藤、一樹、進藤大佐、一樹様、大佐殿――――――。
呼び掛ける声。知らない顔。見に覚えのない戦い。ひたすらに続く地獄と死に様。
――そして、あの人。
“…………ああ、何で――?”
確信した途端、痛みは消えた。後遺症も皆無だ。
もがき苦しむのを止めて、進藤は起き上がる。すぐに右腕の手首に装着されている『固定端末情報携帯機』、略称『携帯』を起動させた。
表示されたディスプレイには昨日と変わらない壁紙と時間が映っている。
瞬間――進藤は呟いた。
「……時間が、戻ってる……?」
西暦二〇五三年四月八日。
奇しくもそれは、進藤一樹の運命がガラリと変わってしまったあの日と同じ日付だった。
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