Chapter2 軍の在り方

36/36
前へ
/85ページ
次へ
 模擬戦をするのは構わない。  新しい隊長の実力を計るためにも必要なことだからだ。  これから自分の命を預ける上官なのだから、是が非でも模擬戦をしたかったのはアーリャも同じ。  頭と性格に難があれど、実力は申し分ないクレイスに勝てれば認めてやっても良いかな、と考えていた。  しかし、新しい隊長は気でも狂ったのか、ブリーフィングを終える直前に模擬戦は六対一でするぞ、と訳の解らない台詞を吐き捨てて出ていった。  “勝てるわけがないだろう”  実力重視の部隊。あの絶望的な左翼防衛戦でも、軽傷だけで生き延びた強者たち。  六人で戦うなど、相手を集団リンチするようなものだ。  例え、投影機械における幻想世界の戦いでも、上官相手にそれは些か気が引ける。  クレイスは傲慢で世間知らずな少佐だと嘲笑っていたけれど、アーリャは頭を抱えて自らの不幸を嘆きたくなった。  何しろ、新しく配属された我々の隊長は自己の強さを客観的に把握できず、尚且つ若くて傲慢で――腰抜けなのだから。  “まぁ、勝てば隊長から降りてくれるらしいし”  そこだけが安心できる要素だ。  勇猛果敢。  アーリャが求める隊長はそれを体現できる人物。  期待は空振りし、不安は増大した。 「はぁああ」  ため息が出るのも仕方無いと云えよう。 「どうかなさいましたか、リュンゲル中尉」 「いや、進藤少佐のことで少しな」  秋葉が心配そうに見詰めてくる。  少佐の副官となった彼女は、一昨日までと違って憑き物が落ちているようだった。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

361人が本棚に入れています
本棚に追加