Chapter1 戦場の薫り

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 呆然と立ち尽くした後、進藤は布団に腰掛けた。先刻とは違う意味で頭を抱える。  “なんだ、これ……”  進藤一樹の頭がおかしくなっていなければ、大日本皇国陸軍大佐だった自分はまず間違いなく戦死した筈だ。  総勢十万ともされる大規模な夜叉の軍勢を前に、たった一個小隊で応戦し、結果的に仲間を全員失った挙げ句、二日以上連続して戦ったことが原因で進藤本人も触手夜叉によって文字通り根こそぎ喰われた筈なのに。  “……マジかよ”  携帯の時間に一分一秒の狂いは存在しない。衛星と魔力伝播塔のお陰で、常に最新ニュースと共に現在時刻を受信するからである。  進藤の記憶が正しければ、今日は運命の日。彼にとっても、また九州に住む日本人にとっても全てが一変した日となる。 「どうして、この日に戻ってきたんだ俺は……」  確かに人類は魔法を手に入れた。  レスベルが『始まりの場所――聖域――』を見付け、全ての魔力の元となる『マナ』をこの世界に供給し始めたのは、ほんの三〇年前の話である。  それから革命が起きた。  科学と魔法の融合。頭打ちされていた発展は急激に加速。誰もが夢見たSFファンタジー小説のような時代の到来を予感した。  “――けど、違う”  勿論、世界の文明度は飛躍的に発展した。軍事技術も、ただの歩兵も、庶民の生活も向上した。  数キロの距離ならば一瞬で移動できる空間転移装置も造られた程だから、その向上レベルは圧して知るべし。  けれど、時間超越装置――俗に呼ばれるタイムマシンは完成していない。  最高機密まで逐次報告されていた進藤なら、確信をもって断言できる。
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