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「……」
「……」
「……か、……チカ?」
「わっ」
ガタンッ、と小さく音を立てて飛び跳ねると、私の顔を覗き込んでいた瀬那君の不思議そうな顔が飛び込んできた。
ぱちぱちと目を瞬かせ、辺りを見渡す。
ここはあの図書室。
私が再び、瀬那君を好きになった場所。
バスケ部が休みだったから、瀬那君が放課後になってからずっと一緒にいてくれたんだった。
今朝見た夢に記憶がフラッシュバックして、つい意識が過去に飛んでいたらしい。
トリップしていた私を、瀬那君は少し心配そうに見つめてきた。
「大丈夫か? 体調、悪い?」
「う、ううん、なんでもないよ。
ちょっと、昔のこと思い出してただけだから」
「昔のこと?」
きょとんとした様子で、首を傾げる瀬那君。
そんな彼の顔を、思わずじっと見つめてしまっていた。
……やっぱり、あの時の男の子に似てる。
ていうか、多分同一人物だ。
何も言わずに凝視する私の視線に戸惑ったのか、彼は僅かに目を泳がせて、そろそろと視線を手元にあった本へと落としていた。
その本は、前に私があげた恋愛小説。
父が最後に出版した、絶版の一冊だ。
既に四分の三は読み終えており、あと少しで読破してしまうだろう。
「……あの、さ。
これ、全部読み終わったら、他の小説も読ませてもらいたいんだけど」
「あ、うん、勿論。
私の家、古書店だし。
他の本も沢山あるし、お父さんの書斎には未発表の小説も沢山あるみたいだよ」
「えっ、まじでっ?」
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