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ちょっとだけ声のトーンが飛び跳ねて、嬉しそうなオーラが滲み出す瀬那君。
やっぱり彼はお父さんの本が大好きらしく、いつになくこの話題を出すと喜んでくれる。
それは嬉しいんだけど、ちょっぴりお父さんの小説にヤキモチ妬いちゃったり。
今までと何も変わっていないようで、少しずつ距離が近付いているこの関係に、もどかしさと幸せを噛み締めていた。
「……なんか、やっぱ変だぞ。
さっきからぼーっとしてるし、人の顔ガン見してくるし。
なんかあったの」
「えっ?
あ、うーん……。
あったっていうか、思い出したっていうか」
「思い出した……?」
怪訝そうに首を傾げる彼に、私は控えめに頷いた。
多分、あれが前に瀬那君が言っていた、入学式に話したってやつなのだろう。
そうなるとつまり、あの時私が感じていた熱い視線は、想い人である私へ直接向けられていたからで。
あの時既に、逢いたかった人に出会えていたのに。
そう思うと、なんだか不思議な気分だった。
思わず頬が緩む私を、やっぱり瀬那君は怪訝な顔で見つめてきた。
「何、気になるから言って」
「うん。
……見つかって、よかったね」
「は?」
意味が解らない、というように目を丸くする瀬那君に、私はニコニコ微笑んだ。
私も同じだ。
見つけられて、本当によかった。
見つけてくれて、本当に嬉しかった。
まさか、二度も同じ人を好きになるなんて、夢にも思わなかったけれど。
私の人生の中で初めて好きになった人も、また好きになった人も、その全部が瀬那君でよかった。
運命って本当にあるのかな、なんて。
ちょっとだけ、夢想的なことを考えてしまう。
「すごく“会いたい人”、見つかってよかったね?」
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