第一章 嵐の前のティータイム

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「・・・転属、ですか?」  西のブリタニア、東の扶桑と並び称された扶桑皇国。その要衝である呉軍港の防空隊基地は、軍港の北西側に所在する陸軍の吉島飛行場を間借りする形で存在した。 「そうだ。何やら新しく統合戦闘飛行隊なる部隊を組織するらしい。」  管制塔の一室に設けられた司令室に、一人のウィッチが呼び出されていた。 「なぜ、私なんですか?」 「さあな。上層部が直接指名してきた。・・・貴官のような優秀なウィッチを手放すのは惜しいが、上層部の命令だから致し方ない。」  指揮官である中佐が、渋面を作って書類を睨み付けている。普段は明るく快活な女性であるのに、ここまで怒っている姿はあまり見ない。 「普通の転属ならまだ納得できた。」 「はい?」 「これを見てみろ。」  差し出された書類をウィッチは受けとる。そこには・・・。 「A6M5、零式艦上戦闘脚五二型の実戦運用試験を次の者に命ず・・・、飯田藤花、扶桑海軍上等飛行兵曹。・・・って、ええ!?私が上飛曹!?」  飯田藤花というウィッチは驚愕して飛び上がる。 「・・・は?驚くところそっちか?昇進なんて普通のことだろう?私が怒っているのは、まだ性質のよくわかっていない機体の実戦運用試験を、うちの隊の優秀人員を引っこ抜いて押し付けてるところだ。」  中佐は机を叩いて立ち上がる。その音に藤花は少し怯んだ。 「っ!・・・つ、つまり、テストウィッチってことですか?」 「だからそう言ってるだろう?だが普通のテストウィッチじゃあない。実戦運用試験というのはな、いつもの戦闘にいつ機体に不具合が出るかわからない試作機を使用するという、死と隣り合わせの危険な任務だ。・・・まったく、上層部の連中は・・・ブツブツ。」  中佐は小言を言い始めた。だが その言葉は藤花まで届いていなかった。 「・・・私がテストウィッチ。」
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