レナの憂鬱、晴れず

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カリグラーゼ下水道。かつては都市機能の一つとして使われていたが他の下水道設備との統廃合などにより打ち捨てられた場所である。 結果として手を入れることのなくなったその場所には魔物達が闊歩するようになった。ただ、都市部が近い事もあり強力なモンスターが徘徊する事はなく、魔物達が持っている金銭(ビートルなどが飲み込んだ金貨やゾンビがかつて生きていた頃の所有物など)を狙って冒険者達が足を踏み入れる、言わば狩場となっていた。 そんなカリグラーゼに、今日もまた冒険者の剣撃の音が響き渡る。 「せいっ!このっ!!くそっ!!!」 レナが追っているのはビートルである。足元には既に10体近くのビートルの死骸が転がっていた。 「待ちなさい!くそっ、ちょこまかと。おとなしくやられなさいよ!」 彼女のショートソードが空を斬り、あちこちに逃げ回るビートル。その様子はビートルに弄ばれているようにも見えた。 ・・・もちろん彼女も、そしてビートルも必死なのだが。 結局、そのビートルを仕留めたのはそれから数分後の事だ。 「よ、ようやく倒した・・・。さすがに疲れたわね・・・」 顔に疲れは見えていたが、結果として多数のビートルを倒した為、その体内にある金銭が沢山手に入る可能性が高くなる。 「さてと、体内を改めさせて頂きますか♪」 グロテスクな現場であるが、それを気にしていては冒険者などはやってられない。彼女は嬉々として死骸を捌くための小刀を懐から取り出した・・・が、 『ヒュッ!』 一瞬の出来事であった。遠くから風を切る音が聞こえ何かが顔めがけて飛んできていた。 とっさの事で盾で防ぐ間もなかった為、右手でその何かを受け止める。 ・・・血潮が地面を赤く染めた。 投擲されたもの、それは小さなナイフであった。それが彼女の右腕に刺さっていた。 人差し指ほどの長さであったため貫通はしていない。また、運よく大きな血管は逸れたようで血が一気に噴き出すような事はなかったが、足元には小さな血だまりができていた。
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