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「な、何を申されるのですか、姫様! このような得たいの知れない輩は即刻斬るべきです。大体未来から来たなどと……」
「私も未来から来た点に関してはそんなに信じてないわ。大方南蛮から来て事故にでもあって頭をやってしまったのでしょうし」
ひでぇ言い様だと義人は小さく呟いた。
「まっ、どちらにせよ住むところ無いんだし、いいじゃない。なにか面白そうだし」
「ですが、姫様は武田の次期当主にあらせられます。もし姫様の身に何かが……」
「武田の次期当主は私じゃなくて信繁よ。私に何か起きても母上は気にも止めないから別に大丈夫」
「ですが……」
「しつこいわ。男として嫌われるわよ」
おずおずと引き下がる騎馬武者(もう馬から降りてる)。
これって危機は免れたんじゃ?
ほっと胸を撫で下ろす義人。
「そういうわけだから義人。あなたは今から私の配下。分かったかしら? 分かったら返事」
「は、はい……」
強引すぎんだろと思ったが悪い話でない。
そりゃあもう根無し草の義人にしてみれば何の条件もなく姫様の部下にとは随分おいしい。
実においしい。
しかも美人なのがこれまたおいしい(目が恐いけど)。
「あと、そうねぇ……その無理して敬語にした感が気に入らないわ。もっと自然体でいなさい。これ命令」
「はい……いや、おう」
「な、何をおっしゃって……」
「何か文句あるのかしら?」
「い、いえ、ございません」
この名も無き騎馬武者は苦労人だなぁ……と義人はしみじみと思った。
「そういえば私の名前言ってなかったわね。知ってるとは思うけど、私の名は武田晴信よ。晴信と呼びなさい。これ命令」
「ひ、ひめ……」
本当てめぇしつけえなぁと晴信の顔に分かりやすく出ていた。
騎馬武者の肩が狭まっていく。
その時だった。
一騎の騎馬武者が馬蹄の音を響かせながら駆けてきた。
「姫様。海野口城城主、平賀源心を見事討ち取りました」
女だった。
女の子ではなく妙齢の女性のようだ。
見た目三十代になったかなってないか。
晴信と違った形で美人だと義人は思った。
「あら、母様じゃない。あなたの策は成功したのね」
「はい。既に海野口は我等が占拠下に入りました。この戦、我等の勝利にございます」
「初陣にしては上出来じゃない?」
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