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「十二分にございます。これで御館様も考えを改めて下さるのではないでしょうか?」
「母上のことはもういいのよ。それに家督を継ぐのは信繁でいいわ」
「しかし、その信繁様を含め、我等重臣一同は」
「その先は言っては駄目よ。どこに母上の手の者が潜んでるか分からないわ。こんな会話聞かれでもしたら……」
「申し訳ございません。軽率にございました」
「あ、あの~」
「むっ……姫様この者は一体?」
母様と晴信に呼ばれていた女性が義人の方に振り返る。
(で、でけぇ……)
大きな胸がたゆんと揺れたのを義人は見逃さなかった。
だって男の子だもん。
ちなみに晴信は見た感じない。
およそこの女性とは対極である。
「あっ、そいつ? 自称未来人の築地義人。面白そうだから私の配下にすることにしたの」
「ほう?」
女性は見定めるように義人を見るとちらりと騎馬武者を一瞥する。
申し訳ありません……目で語る騎馬武者。
「まぁ、いいでしょう。私は板垣信方。以後お見知りおきを」
「信方は武田の宿老よ。それに私の実質育ての親でもあるの」
ああ、だから母様なんだ……と義人は疑問が一つ解けた。
それにこの人があの武田の重鎮板垣信方……にしては随分お若いですね……と義人。
「姫様、それでは躑躅ヶ崎に戻りましょう。長居は無用です」
「ええ。義人、あなたは私の傍に控えてなさい。いい?」
「お、おう。分かった」
「こやつ、姫様になんたる口の聞き方を!」
「いいのよ、母様。私がやれって命令したんだもの」
「左様でしたか……ならば致し方ありません」
警戒心と不快感マックスの信方。
義人が不審な動きをすればすぐ斬れるよう左手は鯉口に添えられている。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「はっ!」
馬上の晴信の隣に地上の義人。
その後ろにいつでも斬る体勢に入っている信方。
さらに後ろにずら~。
どれくらい歩いたかは義人には分からないがその道中。
「な、なあ晴信」
「何かしら?」
「お前、母親と上手くいっていなのか?」
「未来から来たのなら知ってるんじゃないの?」
「いや、そうだけど……」
「ふふ……そうね、上手くいってないどころかこのままだと私は殺されるかもしれないわ」
晴信の実の母親で甲斐の国現武田家当主の信虎は、長女の晴信ではなく次女の信繁を盲愛している。
信虎はゆくゆくはこの国を信繁に継がせようとしているのだ。
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