お仕えするは晴信なり!

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ただそうすると晴信派と信繁派に分かれて甲斐が分裂してしまう。 なので信虎は晴信の命を狙っているのだ。 今回の戦で信虎も落とせなかった海野口を落とした晴信は家中でさらに信頼を得た。 恐らくこのまま晴信の家中での力を警戒する信虎によって殺されるか、よくて追放。 「私が生き残るには方法は一つしかないわ。でもいくらこの戦乱の世でも親に反旗を翻すわけにはいかないのよ」 でも実際それをやっちゃってるんだけどなぁ……。 義人が知っている戦国知識では、男性バージョンの武田晴信は重鎮板垣信方等の力を借りて、信虎を駿河に追放している。 この世界でも多分それは変わらない筈だ。 「そんなに見つめて何かしら? 私の顔に何かついてる?」 「いや、なんにも」 「そう……そろそろ到着するわね。母様、母様」 「はっ!」 「今回の成果と様子を母上に伝えてきて頂戴。私はこれから義人を連れていつものところまでひとっ走りしてくるわ」 「……はっ。しかし護衛は」 「義人がいるから平気よ。仮にも男の子だもの。守ってくれるでしょ」 「し、しかし……」 「それじゃ義人行くわよ。私の後ろに乗って」 義人は言われたとおり馬に跨がる。 晴信の手助けもあって簡単に乗れた。 「姫様! 流石にそれはいけません。臣下が主君の後ろに乗るなどと前代未聞!」 「義人、しっかり私にしがみついてなさい。それじゃ、いくわよ」 晴信が合図を出すと馬が一気に駆け出した。 「姫様ー!」 信方の叫びを背後に速度はどんどん上がっていく。 すっげぇ、馬乗り初体験だ……義人は感激していた。 それに晴信の女の子特有の甘い匂いと柔らかい身体。 ここは天国だと思うのにそう時間はかからなかった。 馬は二人を乗せていてもものともせず山を駆ける、駆ける。 まるで風になったみたいだった。 「どう気持ちいいでしょ?」 「おう」 晴信は先ほどとは違い年相応にイキイキしていた。 時折向けてくる笑顔に義人は、 (やっべ、めっちゃ可愛い……) 不覚にも見惚れていた。 「やっぱり、馬を走らせてる時が一番気持ちいいわ」 へぇ……これが本当の晴信なのかな……。 親を追放したという悪名を背負いながら甲斐の虎とまで呼ばれることになる武田信玄こと晴信。
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