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「なんだ、新井。今日は休養日だぞ」
翌日。オープン戦も残すところあと2試合となった金曜日。今日は2連戦合間の移動日で、試合はないのだが、俺は少しでもバットを振っておこうと、ビクトリーズスタジアムの練習場にやってきた。
そこにいたのは今年から1軍の打撃コーチに就任した佐鳥というおじさん。
俊足好打で名を馳せた名選手ぶりが嘘のようなチーム1の太っちょだ。
「まあ、ヒット出ていないんでちょっと打撃練習をしようと」
「悪いが見ての通り、今日は自主練組がいっぱいなんだ。ティーバッティングをする場所もないぞ」
「あら、珍しいわね」
室内練習場には普段いない2軍の選手達がたくさんいた。2軍寮の練習場が今日は使えないらしくて、みんなこっちにきて昼間から打ち込みをやっているらしい。
悪いが若い連中を優先させてやってくれと言われてしまった。
俺も2年目のバリバリ若手なんですが。
しかし、場所がないんじゃ仕方ない。俺はバットケースに入れたピンクバットを背負い、どうしようかなと、トボトボと歩いてスタジアムを後にした。
まあ、今日はマンションの公園で素振りでもするかと諦めて、とりあえず小腹が空いてきたので駅前に繰り出すことにした。
ブラックジーンズにブルーのパーカー姿。背中にバットを背負い、ついでに葉っぱのついた細い枝を口にくわえ、さすらいの野球選手を演じながら、風の吹くまま、気の向くまま、俺はスタジアムから繁華街を通りつつ、街中をうろついた。
するとだ…:……。
「新井さーん!」
元気のいいポニテ声が辺りに響いた。
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