2287人が本棚に入れています
本棚に追加
/3000ページ
カアンッ!
「ファウルボールの行方には、十分ご注意下さいませ!」
1ボール2ストライクとなったところから、阿久津さんは粘る。
シーズン打率は.278だが、対左になるとどうしてか打率が1割台になってしまうくらい苦手とする左ピッチャーだが、阿久津さんはそれでも必死に粘る。
インコースのボールを詰まっても無理やり引っ張って3塁方向へファウル。
アウトコースも腕をいっぱいに伸ばしてなんとかバットに当てるようにする。
低めの変化球も最後までボールを追いかけてなんとか空振りを逃れる。
そしてワンバウンドと、高めに抜けた真っ直ぐを見逃して3ボール2ストライク。フルカウントになった。
「新井、ピッチャーが足を上げたらスタートだよ。牽制もあるから慌てるなよ」
「はい」
コーチおじさんと確認をして、俺は1度ヘルメットを外して、右手首に巻いたピンク色のリストバンドで額の汗を拭う。
そして同じように汗を拭うマウンド上のピッチャーを見ながら、1歩2歩とゆっくりリードを取る。
セットポジションに入り、俺を見つめるピッチャー。
ニヤニヤとした表情で挑発する俺。
2秒、3秒と時間が経って、高く足を上げたピッチャーの重心がホーム側へと傾いた瞬間。
俺は思い切りスタートを切った。
カアンッ!!
最初のコメントを投稿しよう!