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「ロッテ・・・早く・・・。」
ハンスは振り向くと、妹のロッテをせかすように言った。
「待って、お兄ちゃん・・・。」
ロシア軍の砲撃で地面はまるで地震の様に震え、辺りは爆発音と人々の悲鳴と怨嗟の声で満ちていた・・・。
地面が震える度に、小さなロッテはしゃがみこみ両手で耳を押さえた。
ハンスはその度にロッテの手を取って立ち上がらせると、その小さな手を握った。
お父様・・・お母様・・・主よ・・・どうか僕とロッテを守ってください・・・。
ハンスは埃で汚れたロッテの顔を汚れたハンカチで拭った。
ロッテは頷くとハンスの手をギュッと握り返した。
辺りは、死が横行していた。
死んだ人・・・人・・・人・・・放り出された荷物・・・彷徨う馬や牛・・・。
そして、ただ呆然と虚空を見つめる路傍の人々・・・。
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