水中世界

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一度、気の遠くなる距離を泳いでいったことがある。 波のずっと向こうに見える、空を目指して。 雨が降り注いで、波紋が幾つも広がった。 風が吹いて、水面が激しく揺れて白く泡立った。 大きな船が、大きなスクリューで海を掻き混ぜていくのを横目に眺めて。 月の綺麗な夜には、歌を歌ったりもした。 魚の群れに揉まれたり、鯨の背中で一休みさせてもらいながら遠く、遠く。 だけど、何度瞬く星を眺めたって、あの青には手が届かなかった。 近付けば近付くだけ、遠ざかっていく。 私に届く青は、このゆらゆらと揺れる青だけ。
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