オカンと豚

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「プロレス見たい」 ある日の夜、我が家のオカンは唐突に言葉を放った。 我が家では、良くある光景である。 「え?何?」 我が家は、部屋というものがない。 仕切り無し、オールフリー、プライバシーなんて何ですかそれ美味しいの的な空間だ。 そんな訳で、一人の発言が住人全員に聞こえるのである。 例に漏れず、オカンの唐突な発言を聴いた俺は、ベッドでゴロゴロしながら携帯片手に聞き返した。 「この前、節制友達と深夜のプロレス見たんでしょー?いーなー、私も見たい」 「あぁ、その話。見ればいいじゃん」 「無理だよー、私忙しいもん」 そう、オカンは多忙なのである。 日々色々な事に追われ、深夜のプロレスを見るなど以ての外なのだ。 「まぁ、そうなるわなぁー」 「くそぉー、プロレスー!」 「いや、どんだけプロレス好きなんだよアンタは」 俺が携帯の画面から目を外し、オカンへと目を向ける。 こんな会話をしながら洗濯物を部屋干ししているオカン……我が家ながら、何ともシュールである。 そんな我がオカンは、力の入った声を上げる。 「だってほら!私プロレスラーになりたかったからさ!女子プロ!」 「あー、そういやそうだったね」 我がオカンの夢、その1。 女子プロレスラー。 オカンは別に、熊のように体格が良いわけではない。 どちらかと言えば小動物である。
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