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♭1 ふらっと ふらっと…
「なぁ、うなじ…いったいココはどこだ?」
長いまつ毛が……羨ましい。
「おい、聞いてんのか?」
しなやかな紅い髪が……妬ましい。
「なぁ、シカトすんなよ!?」
……あぁ馬鹿デカイ声が、カンにサワる!!
「知らないわよ! アンタの部屋に行ったのに、
何で、アンタが知らないのよ!?」
両手をわなわなさせながらも、
必死に怒りをこらえてみる。
……ようにしてるけど、
本当はそれ以上に――戸惑いが、
不安が恐怖が勝ってしまって、
手足が勝手に震えている。
足を麻痺させる落下の感覚――
その恐怖から解き放たれ、
意識がはっきりした頃には、
……既に手遅れな気はしていたのだ。
ふと、見上げてみれば、
天を貫くかのような、深緑の木々の隙間から、
微かに覗き見ることができた空は、
とぐろを巻く暗雲で塞がれていた。
慟哭にも似た得体も知れぬ鳥獣の声。
その残響が、胸を掻き乱す森の中で……
わたし達は迷い子となっていた。
何故こんな事になったのかは、
さっぱりわからない。
さっきまで……確かに、
共同広間にいたはずなのに!?
おんぼろアパートを改築して、
世間様の流行に乗っかろうとした。
わたしにとっての伏魔殿
シェアハウス『春原荘』に。
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