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バスは『七曲』(ななまがり)と呼ばれるカーブが続く坂を上っていく。
免許取立ての頃、よく運転の練習に使った道だった。
教官代わりに同乗するのは、運転免許を持たない父とペーパードライバーの母である。
ハンドルを切ったりアクセルを踏んだりするたびに「怖い」「危ない」と甲高い声を発する母を戒め、父は無言でただ座って前を睨みつけていた。
無口な人だった。
彼が何を考えているのか、私にはただの一度も理解することが出来なかった。
だけど一度だけ、明らかに父がはしゃいでいたのを良く覚えている。
丘の上に新しく作られた霊園に墓を購入し、そこに石が建ったとの連絡が入った時、まるで花見にでも誘うかのような口調で「家族みんなで見に行こう」と彼は言った。
そしてまだ誰も入っていないその墓の前で、家族全員の集合写真を撮った。
思い返せばそれが、私たちの最後の家族写真である。
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