現実

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慎也さんのお母さんはきっとお花が好きなんだ……。 ふと、庭の花壇のところでしゃがんでいる女性の背中が見えた。 それをとらえた瞬間、あたしはなぜか無意識に後退り、すぐ横にあった電柱の陰に身を潜めた。 あたしは何をやっているの!? 顔をあわせて挨拶をすればよかったんじゃないの!? こんな風に逃げるようなことをしてしまうなんて……あたし、何をやっているのだろう。 そんな自分に大きな溜め息をついてから、道路に一歩踏み出したとき、 「何やってんの?」 ふわりと耳を撫でるように届いてきたやさしい声。 一瞬あたしに向けられたものかと勘違いしそうになったけれど、それはお母さんに向けられたものだった。 窓から顔を出した慎也さんがそのまま庭へ出てきたのだ。 薄いブルーのポロシャツにカーキ色の細身のチノカーゴパンツという、今までに見たことのない格好をしていた。
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