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神楽がドアの近くのマイクをとって話しかける。
「討伐班新人教練担当、神無(かんなし)神楽、及び……」
そう言って手にしたマイクを慧に差し出す。先ほどのようにするのが規則なのだろう。すぐに慧もマイクに顔を近づけ話しかける。
「討伐班班員番号32番、鷹峯慧、過日の戦闘の最終処理として、今回の被害者を連れて来ました。入室、宜しいでしょうか」
すると、マイクがかけてあったところのスピーカーからノイズ混じりの音声が響く。
『ああ、いいよ。ロック外すからちょっと待ってね』
数秒の後、ピー、という電子音とともにドアのランプが赤から緑へと変わる。ロックが解除されたということなのだろう。
「失礼します」
慧がそう言ってドアを開け、中に入る。咲と神楽もそれについて部屋へと入る。
団長室の中はまるで会社の社長室のようだ。手前には二つのソファーが縦に対面に置かれている。その間には、背の低い、長方形のテーブル。その奥には、高級そうなオフィスデスク。しかし、全体的に華美な印象はなく、非常に質素な雰囲気。恐らく、ここの部屋の主の人柄が現れているのだろう。
そして、部屋の中、一番奥にある椅子に腰かけているのは、一人の男だった。
「やあ、よく来たね」
その男を見たとき、咲の頭に浮かんだのは、疑問、だった。なんと言ったらいいのか分からないが、なんだか変な感じがするのだ。
「そこの二人とも、立ったままじゃあなくて、そこのソファーに座ってくれないかな。僕も喋りにくいからね」
そう言われて、咲と慧は慌て右側のソファーに並んで座る。ちなみに神楽はすでに左側のソファーに座っていた。
三人全員が座ったのを確認した男は椅子から立ち上がり、神楽の隣に座る。
「さて、と、君は何が知りたいのかな?[アレ]の正体?君が襲われた理由?それとも僕たちが何者なのか、かな?」
どうしよう。全部教えてくれとは少し言いにくい。咲が悩んでいると、隣に座った慧が耳打ちしてきた。
「悩むより、素直に言ったほうがいいと思うよ」
ならば素直に言おう。咲は腹をくくり、男に訊ねることにした。
「すみませんが、私は全部知りたいんです。[アレ]が何なのかも、なんで私が襲われたのかも、あなた達がいったい何者なのかも。全部をです」
咲がそう言うと、男は一瞬懐かしむような表情になった後、口を開いた。
「なら教えよう。まずは[アレ]の正体からかな」
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