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「ありがとうございましたー」
コンビニ店員のテンプレじみた言葉を聞きながら、音更咲(おとふけさき)は溜め息をついた。
時刻は既に深夜である。女子高生である咲が出歩くには些か不謹慎な気もするが、心配してくれる家族など疾うにいないので問題はない。
そもそも、こんな時間に出歩いているのは、学校の宿題のお供に最近お気に入りのお菓子を食べようと思ったが、家に置いてなかったのでこうして買いに来たのだが。
(どうしてこういう時に限って欲しい物が売ってないのかな……)
仕方ないので家に帰ろうと思い、我が家へ続く道に顔を向けた先に。
「ソレ」は、いた。
全体は人に似ているが、間違いなく人ではない。人にしては大きすぎる。近くの電灯と比べると、その三分の二の辺りに頭がある。その上、異様に腕が太く長い。まるでオランウータンかゴリラのようだ。
「ソレ」は何かを探しているかのように辺りを見回していたが、やがて動けない咲に気づいたらしく、こちらをじっと見据え、そして、目があってしまった。逃げなくてはならないと本能は言っているが、体が言うことを聞かない。
そうこうしている間に「ソレ」は咲に向かって足を踏み出した。ズン!という音とともに地響きがこちらまで伝わってくる。目算で五十メートル以上あるこちらまで響くとは、かなりの重量があるのだろう。「ソレ」が一歩進む毎に音と振動が少しずつ大きくなっていくのが、恐怖を増幅させる。
唐突に、近くの一軒家の窓が開き、中からその家の家主らしき男性が顔を出し、周囲をキョロキョロと見回す。
丁度いい。彼に警察でも呼んでもらおうかと声をかけようとした途端、信じられない台詞が彼の口から飛び出した。
「何だぁ?地震かぁ?」
どういうことだ?彼にはあの化け物が見えていないのだろうか?
混乱しているうちに化け物が目の前まで接近してきていた。間近で見るとかなり大きいのがよく分かる。
「ソレ」は身を屈め、顔を咲に近づけると、身の毛のよだつような声で話しかけてきた。
「オマエ、オレガミエルノカ?」
その言葉を聞いた瞬間、「ソレ」に背を向け逃げ出していた。
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