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走る、走る、走り続ける。人気の少ない路地を右に左に曲がりながら、後ろからやってくる「アレ」に追い付かれないように。
暫く走り続けると少し開けた場所に出た。どうやら空き地のようだ。というかこれは。
「行き……止まり……?そんな……」
後方から小さな地響きが聞こえてくる。周りはとてもではないが越えられそうにない塀。まるで漫画か小説のワンシーンのようだ。
一際大きい足音が真後ろでなる。恐怖に表情を引きつらせながら振り向くと、「アレ」が再び目の前にいた。そしてまた口を開く。
「オマエオレガミエルンダナ!ナラソノタマシイイタダクゾ!」
「ソレ」の太い右腕が振るわれる。あぁ、ここで死ぬのか。咲はそんな思いを抱きながら、目を閉じる。グシャッ!という肉の潰れる音が路地裏に鳴り響いた。
***
……。……。……?
咲は不審に思った。何時までも意識が途切れないのだ。
恐る恐る閉じた目を開ける。
すると目の前に広がっていたのは、「ソレ」を見つけたときよりも現実味のない光景だった。
「ソレ」の右腕の前腕部がひしゃげていて、巨体を振り乱しながら叫んでいる。そして咲の前には二人の男が立っていた。
向かって右の男は金髪で、身長は咲より少し高い程度だろう。両手には1m半位の長さの柄が長い槍─所謂スピア─が握られている。
左側に立っているのはかなり長身で、体格のいい男だ。180cm強はあるだろう。彼が持っているのは長さが190cmほどのハンマーだ。ヘッドの部分がかなり大きい。小さめの本棚くらいありそうだ。それが化け物の右腕をひしゃげさせたのは彼のハンマーを振りかぶった体制から明らかだ。
「ソレ」はひとしきり叫んだ後、使い物にならなくなった右腕を引きずりながら二人の闖入者に向かって声を張り上げた。
「オマエラナニモノダ!ナゼオレノジャマヲスル!?」
その疑問に対する答えは意外なものだった。
「だってそれが俺らの仕事だもんよー。なぁ、豪(ひで)?」
とても現実的な金髪の返答に豪と呼ばれた長身の男が言葉を返す。
「まぁ、そうだが。あまり喋っている暇はないぞ、慧(けい)。」
そう豪が言った次の瞬間に、化け物が雄叫びを上げながら左腕を振り上げる。
「ナメルナァァァァァァァ!」
「ソレ」の左腕が地面に叩きつけられると同時に、ドズン!という轟音が周囲を揺るがし、思わず咲は尻餅をついてしまう。
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