異形と槍と鎚

4/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 だが二人の闖入者は既に駆け出していた。揺れる地面をものともせず、素早い動きで「ソレ」に近づいていく。「ソレ」の2mほど手前に来たところで、慧と呼ばれた金髪が、槍を持った右腕を引き絞り、勢い良く右足で地面を踏みしめながら、槍を「ソレ」の脇腹に向かって突き出す!  ズブリ、という肉を抉る音とともに、槍の穂先が四分の三ほど「ソレ」の身体に埋まる。再び、「ソレ」の悲鳴が路地裏に響く。  慧が槍を引き抜き、もう一度突き刺そうとするが、「ソレ」は槍が抜かれると同時に暴れまわり、近づくことすらままならない。  すると、「ソレ」の後ろに人影が。あれは豪だ。振り回される「ソレ」の腕をかいくぐり、両手で持ったハンマーを横薙ぎにフルスイングする。肉が潰れる音とともに「ソレ」が地面に膝を突く。  未だに立ち上がろうとする「ソレ」に慧が近付いていき、槍の穂先を下にして、高く持ち上げる。 「終わりだ」  慧がそう呟き、槍を「ソレ」の頭に向かって振り下ろす。ドズリという音とともに「ソレ」は大きく痙攣した後、ピクリとも動かなくなった。  咲は全てが終わったと理性が告げ始めてもまだ動けなかった。  自分を狙った異形の化け物。それを屠った二人の闖入者。それらは咲が知っている「現実」から余りにもかけ離れていたのだ。 「大丈夫か?」  不意に声を掛けられた。見ると豪がこちらに手を差し伸べている。その手を掴むと非常に強い力で引っ張られ、立ち上がらせられた。 「はい、大丈夫です……」  近くで見ると豪はかなり長身だし、体格もいい。というか顔が怖い。友人が読んでいた漫画の登場人物に、こんなのがいた気がする。あれは確か元ソ連軍軍曹で今はロシアンマフィアの幹部の副官を務めていたのだったか。 「あの……アレは何なんですか?なんで私が狙われたんですか?それに、あなた達はいったい何者なんですか?全部教えて下さいよ!」  咲は豪に自らの疑問を全てぶつけた。こちらはナニがなんだか、全く分からないのだ。それらの疑問の答えを知っていそうな相手に質問するのは、人間として当然の心理である。  しかし、その返答は咲の望んでいたものではなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!