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翌日、咲は昨夜の出来事などなかったかのように一日を過ごした。
朝起きて朝食を食べ、学校へ行き、授業を受けて、休み時間には友人と他愛のない話で盛り上がる。放課後は部活で汗を流し、友人達と寄り道をしながら帰る。
以前と何も変わらない日常が数日続き、あの夜の出来事は夢だったのだと忘れようとしていたとき、咲はあれが夢ではなく現実だったと思い知らされた。
***
ぴん、ぽーんと玄関のチャイムが鳴った。学校で出された宿題をやろうとした矢先である。セールスか何かか、もしそうなら丁重にお帰りいただこう。そう思いながら玄関の扉を開けると、そこには思いがけない相手がいた。
「音更……咲ちゃんだね?」
立っていたのは金に染めた髪に、派手な服装をした少年だった。歳は咲と同じか、少し上くらいだろう。身長は咲より少し高い程度だ。男性としては、小さめの部類に入る。咲はこの少年に見覚えがあった。
「俺は鷹峯(たかがみね)慧……と言っても覚えてるかな?」
勿論覚えている。あの夜現れた二人のうち、槍を持って、化け物にトドメをさしたほうだ。慧がこうして目の前にいる以上、あの出来事は夢ではなかったということになる。
「あの…この間はありがとう、ございました」
「まあ、あれが俺らの仕事だからね。それに敬語使わなくていいよ。俺今年で18だし。あんま歳変わんないでしょ?」
これは驚いた。自分と1歳しか変わらないとは。なら遠慮なくタメ口で喋らせてもらおう。
「それで?私に何の用?」
まあ、予想はついているが。
「咲ちゃんを迎えに来たんだ。後始末も終わったしね。」
予想通りだ。遂にこの時が来た。あの夜生じた疑問の答えが得られるチャンスだ。
「まあイヤなら来なくていいんだけど……」
「行くよ。早く連れていってくれる?」
すると慧は面食らったかのような表情になって、
「驚いたな……。度胸あるんだね……。じゃあ、ついてきてくれる?」
そう言って慧は玄関の外に出て行く。咲も慧を追いかけて外に出る。
そして慧は咲にバイク用のフルフェイスヘルメットを差し出し、
「それ被って。ノーヘル違反だから」
と言ってきた。まさかバイクで連れて行くのだろうか?
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