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春。麗らかな陽気の中で満開の桜を見ながら高校の入学式を迎えられると思って昨日から張り切っていた私の心はぽっきりと折られてしまった。朝食の最中に見た天気予報のお姉さんが、『今日は一日雨でーす』なんて…わざとらしい笑顔で言っていた上に、窓を閉めていても聞こえる雨音のせいで。この様子じゃ、きっと桜は散ってしまっているだろう。
「ついてないなぁ…」
「あら、そんな事ないわよ衣里ちゃん」
ダイニングテーブルの上に頬を付けて突っ伏していた私の後ろから前のめりになって顔を覗き込むさち子さん。8年前、交通事故で亡くなった両親の代わりに私、山川衣里子を女手一つで育ててくれた人。お母さんそっくりな声を聞いていると、やっぱり姉妹だなーなんてしみじみ考える事もある。
「何で?せっかくの入学式なのに雨なんだよ?」
「今日一日だけで考えるからブルーになるのよ。第一志望の高校にいい成績で受かったのに、ついてないなんて贅沢な奴めー」
人差し指の腹で頭をグリグリ押されて、うーっと不服な声を漏らせば明るい笑い声が降って来る。この声も暫く聞けないのかなー。
「って、もう時間!行かなきゃ!」
「あらやだもうそんな時間?伯母さん式には行けないけど、学校からは近いんだからたまには帰ってきてね」
「うん!行ってきます!」
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