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街の灯りが遠くに見える、薄暗い路地裏。
「ゲボッ…かはっ!!」
地面にうずくまり、血を吐く咳や呻き声を漏らす数人の男たち。
「た…助け…」
壁に背中をこすりつけ、大きな図体を情けなく震わせる血まみれの男を、暗闇に浮かぶ銀色の瞳が冷たく見据える。
「…どうして?」
表情一つ変えずに、銀色の瞳が問う。
その声は、容姿に見合う幼さが残るものだった。
「あなたたちが傷つけたこの街の人たちも、同じように助けを乞うて、それを踏みにじってきたのでしょう?」
ガタガタと震える男の眉間に、靴の底が硬質な音をたててねじ込まれる。
「ひぃ…っ!!」
「何故、そんな人間の言うことを、私が聞かなきゃいけないの」
グッと足に力を込めれば、乾いた激しい音をたて、男の後頭部が壁に容易くめり込んだ。
そのまま意識を手放した男から足を離し、未だ冷ややかな瞳のまま彼らを見下ろす。
狭い天高くにある白い月を見上げて、ふと瞼を閉じた。
その瞼をゆっくりあげると、瞳の色は夜空に似た漆黒。
「…私は、月でいい」
『彼』という太陽があるから輝ける。それでいい。
「彼がいるから…私は存在する」
それが、嫌ではない。
誰かに必要とされている。
それが嬉しいから。
自分が夜な夜なこうして出掛けていることも、きっと彼は気付いている。
それでも素知らぬ顔をするのだ。
彼は私を好きにさせてくれる。
それは、私を信じてくれているからだ。
「…帰ろ」
彼を思うと、さっきまで冷酷だった心は、人としての心を取り戻す。
こういう時、本当なら人は、笑えるんだろうか……―――
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