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「イナちゃ~ん、まだ起きないの~?もしもーし」
イナが布団にうずくまる傍らに立ち、ジェイクが本日何度目かのモーニングコールをする。
自分の体の何倍もある男相手でも容赦なく打ちのめすイナだが、朝にはとことん弱いという弱点があった。
もぞもぞと布団の中で動いて、ようやくイナの瞼がうっすら開く。
「…うるさい」
寝起きらしいぼんやりとした声の咎めに、ジェイクは笑う。
「やっと起きた?おはよう、イナ」
「ん…おはよ」
いつも無表情ではあるが、一層にボーッとしつつ、頭から布団を被ったまましばらくベッドに座っていた。
その様子を微笑ましく見つめ、ジェイクはブーツの紐を結ぶ。
「そういえばさぁ、二ブロック先の路地裏でツィンスターの手下が六人ばかり瀕死で見つかったんだってよ」
「ふーん…」
気のない返事をして、イナは目元を擦る。
「興味なさそうだな」
「ないわよ。クズが減っただけでしょ」
「ははっ、相変わらず辛辣ですこと」
「シャワー浴びてくる。タオルちょうだい」
ジェイクが投げて寄越すと、イナはそちらを見ないでタオルを受け取る。
「あ、今度は裸で出るなよ!?」
イナはジェイクの声に頷いて、伸びをしながら浴室のある部屋の奥へと消えた。
背中を見送って、ジェイクは苦笑する。
「やれやれ…やっぱり言わないか」
イナのことだ。
自分にバレてることに気付いてるだろう。
そもそも、見るも無残にやられていて『瀕死』というのは常人には無理だ。
ギリギリの状態で生かしておくなんて業は、正しく神業なのだから。
「無闇に命を奪うことはなくなったな…イナのやつ」
手加減の出来る精神状態だったということか、それとも制御が出来るようになったのか。
ジェイクは頭を掻いて、一つだけ深く息を吐いた。
「まったく、手のかかる『相棒』だ」
そうぼやいた口元は、淡く微笑んでいる。
ベッドに横たえた、いつも背負う棺桶のようなそれを指で弾きながら、実に嬉しそうに。
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