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宿屋の前で、シェイラとカイルが並んで二人を見送る。
「また是非いらっしゃってください。いつまでもお待ちしています」
「はい、また必ず!その時はしっかり金を落とします」
「ふふ、気になさらないでください。カイルを助けていただいただけでなく、素敵なお話と時間をいただきました。それだけで充分すぎるくらいだわ」
柔和なシェイラの表情につられるようにジェイクが笑う。
「お姉ちゃん。これ、あげる」
カイルがイナに差し出したのは、庭に咲いていた一輪の花。
「どうして私に?」
「僕、見たんだ。このお花見て、お姉ちゃん言ったでしょ?『キレイね』って。その時、少しだけ笑った気がしたの」
カイルの言葉に、誰もが目を丸くした。
イナも例外なく。
「私が…笑った…?」
「うんっ!でね、このお花でお姉ちゃんが笑顔になれるなら、これをあげる。また笑ってもらえるように!」
「カイル…」
カイルから花を受け取り、鼻先に近付ける。
「…いい香りね。ありがとう」
とても優しい声なのに、イナの顔は変わらない。
ただ、瞳は声色のように優しいもの。
それが小さな彼には分かったのか、頬を赤くして満足そうに笑った。
その様子を見て、ジェイクは一層笑みを深める。
シェイラとカイルに手を振って、二人の足は、ツィンスターの屋敷に向けられた。
「さぁーて…どうしようか?」
「何もしなくていいわ。“いつも”みたいに」
「ん、そだね。カモは…」
いつの間にか二人の周囲は、ガラの悪い大男たちに取り囲まれていた。
その剣呑な状況を楽しむように、ジェイクはニヤリと口元を緩める。
「ネギ背負ってやってくる、ってな」
「カモのほうがずっと可愛げあるけどね」
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