#01 ゲーム

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やばい。 そう思った時には遅かった。 ひんやりとした壁の冷たさが、指先から伝わってくる。 これ以上、後ずさりできそうにない。 じりじりとにじみよられて、壁際まで追い詰められてしまった。 左右は両の手でふさがれている。 どうしよう。 逃げ場はもうない。 目の前の彼は余裕のある眼差しを私に向ける。 と。 その薄い唇に意地悪そうな弧を描く。 ぞくり、と震えあがりそうになる。 ああ、そんな顔もたまらなく愛しい。 全身から好きっていう感情が溢れて止まらない。 でも……だめだ。 言わない。 絶対に言うものか、私からは。 「俺のこと、好きなんだろ? 好きって言えよ」 対峙する彼の目は私をまっすぐに射抜く。 どちらも1歩も譲らない。 これは、言うか、言わせるかのゲームなんだから。 どれくらい、そうしていただろう。 ふうっ、と彼が短くため息をつく。 悩ましげに。 「あーもう」 ぐちゃぐちゃと前髪を無造作に掻きあげるその仕草。 ふつうなら嫌味にしかならないのに。 なんてさまになる人なんだろう。 「だったら、俺が言ってやるよ」 どくん、と大きく心臓が跳ねる。 一気に心拍数が上がっていく。 「俺は!」 苛立ちを抑えきれない様子で彼は声を荒らげる。
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