第一章

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気付くと、いつの間にか朝になっていた。 制服にぱぱっと着替えて、階段を降りて行くと、フライパンを片手に立つ父の姿があった。 あれ……お父さん? いつもなら、お母さんなのに…… 不信感を抱きながらも、ゆっくり近づく。 「おはよう、お父さん。」 お父さんの様子を伺いながらかけた緊張の言葉。 瞬間、お父さんは私を睨みつけ、早く座りなさい、とだけ呟いた。 「……あ、の……お母さんは?」 炒めていた手がピクっと動き、鋭い目つきが私を睨んだ。 「由美は昨日、お前が帰る前に倒れて、いま入院しているよ。 ストレスと疲労だ。」 ーーえ……。 昨日の夜……私はあの後記憶は薄くて、とにかく家に走った記憶しかない。 「なのにお前は…… 何だか知らないが、あんなに遅くに帰って、しかも話を聞きもせず、ベッドに突っ伏した。 どうせ、ちゃらんぽらんな学校だ。 あんな学校に相応しいばかとでもさわいでいたんだろ。 勉強もせずに。」 「違う……! 昨日は友達と遊んでないし…… 勉強だって、いつもは毎晩やってるし…」 「お前の事など別にどうでもいい! ……お前曰く頑張っても、私立に落ちた……そんなお前に、俺はとっくに期待はしていない。 しかし母さんを悩ませ、病気に追い込み、 電話しても出ず、挙げ句の果てに帰って来てから話を聞こうともしない。 ……勉強の以前に、ーーお前には心底呆れた。 由美が倒れたのは、お前のせいだ。」 そのとき、私の何かが音をたてた気がした。 ツーと、静かに涙が流れた。 お母さんが倒れた。 ーー聞いたとき、何故かホッとした。 お前のせいだと、……どうでもいいと言われたとき、 ーー悲しいとか、悔しいとか、そんな感情は、持てなかった。 そんな自分の最低さに、 ーー私自身、疲れた……。
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