8人が本棚に入れています
本棚に追加
……ううん、もういいの。
左手の親指をギュッと握りながら、大丈夫、と自己暗示させた。
「結、結!」
その時耳に響く高い声がいきなり降ってきた。
急いで見上げると、髪を明るい茶色に染めた、小林 香織が私を見つめていた。
「もう、結、またボーッとしてる。
それよりさ、聞いてよ。昨日吉田に嫌味言ったら、スルーしたんだよ。
マジムカつくんだけど。」
喋るたびに、チラリと見えるピアスが小刻みに動く。
「そうなんだぁ。」
ーーこういう悪口、何度されても慣れないな。
そう思いながらも、笑って会話に入る私は、……ただの臆病者だ。
香織とは、高校の入学式の時に出会った。
私立高に落ちてどん底にいた私に、席の近い香織が、話しかけてくれたのがきっかけだった。
当時は、悪口などではなく、楽しく明るい話をしてくれた。
それ以来、気の合わないはずの私達は、ずっと一緒にいる。
香織は嫌いじゃない、けど……悪口ばかり話されては、嫌いになりかねなかった。
なのに流されてる自分がいた。
そういえば、と香織がバッグから派手な雑誌を取り出した。
「見て見て。昨日発売日でさ、このマスカラのパッケージ、超可愛くない?」
「でも私、いつもノーメイクだしなぁ」
だいたい、お化粧はもともと校則違反だけど、ね。
「結可愛いんだからさ、自信もっと持ちなよ。
メイクしたら、絶対可愛いって。」
笑顔でお化粧を勧める香織。
ーーそういえば香織、私の何が良くて一緒にいるんだろう。
そんな疑問が浮かんだものの、香織に直接聞くことなんて、恐ろし過ぎて出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!