第一章

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……ううん、もういいの。 左手の親指をギュッと握りながら、大丈夫、と自己暗示させた。 「結、結!」 その時耳に響く高い声がいきなり降ってきた。 急いで見上げると、髪を明るい茶色に染めた、小林 香織が私を見つめていた。 「もう、結、またボーッとしてる。 それよりさ、聞いてよ。昨日吉田に嫌味言ったら、スルーしたんだよ。 マジムカつくんだけど。」 喋るたびに、チラリと見えるピアスが小刻みに動く。 「そうなんだぁ。」 ーーこういう悪口、何度されても慣れないな。 そう思いながらも、笑って会話に入る私は、……ただの臆病者だ。 香織とは、高校の入学式の時に出会った。 私立高に落ちてどん底にいた私に、席の近い香織が、話しかけてくれたのがきっかけだった。 当時は、悪口などではなく、楽しく明るい話をしてくれた。 それ以来、気の合わないはずの私達は、ずっと一緒にいる。 香織は嫌いじゃない、けど……悪口ばかり話されては、嫌いになりかねなかった。 なのに流されてる自分がいた。 そういえば、と香織がバッグから派手な雑誌を取り出した。 「見て見て。昨日発売日でさ、このマスカラのパッケージ、超可愛くない?」 「でも私、いつもノーメイクだしなぁ」 だいたい、お化粧はもともと校則違反だけど、ね。 「結可愛いんだからさ、自信もっと持ちなよ。 メイクしたら、絶対可愛いって。」 笑顔でお化粧を勧める香織。 ーーそういえば香織、私の何が良くて一緒にいるんだろう。 そんな疑問が浮かんだものの、香織に直接聞くことなんて、恐ろし過ぎて出来なかった。
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