第一章

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雑誌を広げて、談笑していると、 「香織、結、おはー。」 という声が聞こえてきた。 「おはよう、瑞希。」 「あ、瑞希、この雑誌買った?このブランド超好きなんだけど。」 瑞希は香織と同じく、茶色のクルクルした髪を耳にかけ、私の前の席に座った。 「あー、買うの忘れてたわぁ。 そのブランドめたんこ可愛いよね」 瑞希の手には、いちごオレがあり、チューチューと音させながら飲んでいた。 瑞希は、香織繋がりで仲良くなった。 香織と仲良くなければ、私と瑞希は全く接点のない、ただのクラスメイトだっただろう。 「あ、香織! ……ぶりっこ吉田、来たよ。」 瑞希の鋭い視線の先に居たのは、悪口を散々言われていた、吉田さんだった。 吉田さんは、とびきり可愛い。 容姿も、声も、背だって小柄だし、でも性格はよくわからない。 いつも静かに読書をしているのだ。 そんな吉田さんは、無表情で、私達に近づいて来た。 ーーあ、そっか。吉田さんの席、私の前……。 ふと瑞希を見ると、思いっきり睨んでいた。 香織も同じく、気に入らない、とでも言いたげな顔をしていた。 ……うわ、怖い……。 吉田さんは、瑞希の前に立つと、 「私の席。……どいて。」 と冷たい視線で言い放った。 瑞希は、一瞬舌打ちしたかと思えば、急に笑った。 「ごめんねぇ吉田さん。 ーーあ、ジュースこぼしちゃったぁ。 ごめーん。」 ピンク色に染まりつつある吉田さんの机に、私はひどい悪意を感じた。 吉田さんの顔をふと見ると、冷たい瞳は潤みさえしなかった。 ……吉田さんは、強いな。 こんな事をされても、平気な顔だ。 それが尚更苛立たせるらしく、瑞希はうざ、と聞こえる大きさの声でつぶやいた。 それでも吉田さんは無表情で、真っ白なハンカチで机の上のジュースを拭いた。 胸がチクリ、と痛む。 香織と瑞希のバカにした顔を横目で見る度、情けない自分に絶望していた。
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