第一章

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「あー、マジうざい。 本当、吉田うざいわ。…消えてくんないかな。」 休み時間のトイレで、瑞希は化粧をしながら愚痴を言っていた。 「本当うざいね。 吉田、自分のこと可愛いとか思ってそうなんだけど。 だったらウザくね?」 香織も瑞希の後にそう続いた。 「あ、確かにウザいわ。 対して可愛くないくせに、調子のんなっつの。 ……結もそう思わない?」 「……え……」 いきなり私にふられて、ドキンとする。 ーー動揺しちゃダメ。大丈夫、うまく交わせば。 「…確かにねー。 最近、本当悩みとか増えてく一方だよね。」 「本当だよ。 ま、悩みってか、苛立ち?」 瑞希は今度はマスカラを手にして、鏡を覗いた。 ……悩みが多い、ってのは、嘘じゃない。 なんとか話を反らせた様でホッとする。 「ねぇ、……wingって、知ってる?」 香織は、髪をいじりながら、私と瑞希に問いかけた。 ……wing……って?翼? 「wingってサイトの名前なんだけど、そのサイト今流行ってんだよ。 なんか、悩みとかを分かち合ったり出来るんだって。」 悩みを分かち合えるサイト……? 「あ、それ誰かがやってみたって。 したら、超楽しいとか言ってたよ。 でもそれ、出会い系なんじゃない?」 「でも、規制かかってて、20歳以上は年齢確認のとき入れないようにしてるんだって。 だから、事件とかは起きてないっぽいよ。」 危険性は、少ないんだ。 その時の私は、まだサイトの事は、頭の片隅にしかなかった。 ーーまさか私が、サイトなんかに踏み入れるなんて、思いもしなかったからだ。 ここでチャイムも鳴り、教室に戻った。 暖かい風の入る教室の片隅にある、私の席。 近くの男子に優しい笑顔で話す安西くんが、何だか眩しく感じた。
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