第一章

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ーーあれ……。 まだ目を閉じたまま、ゆっくりと体を起こす。 「あーー」 ガタ、という音と共に、隣から声が聞こえて、反射的に隣を見る。 「あ、安西、くんーー」 安西くんは顔を少し赤くして、照れ笑いをした。 ……そんな顔、するんだ。 いや、何勘違いしてんの、別に照れ笑いに見えただけじゃんーー 「佐伯さんは、何でまだ教室に?」 「え、え? いや、ちょっと寝ちゃってて…… その、安西くんは、なんで……」 安西くんをもう一回チラリと見ると、見慣れた白いTシャツに、青いズボン姿だった。 「って……部活終わり、だよね。 どうみても……」 自分の慌てて出た言葉は、凄くわかりきった言葉だったのに気づき、恥ずかしくなる。 ばか、私……。 「うん、部活終わり。 教室に忘れ物しちゃってさ。」 窓の外に目をやると、日はすっかり沈み、深い青空に星がキラキラと光っていた。 「もう、真っ暗……」 「あの、さ。 佐伯さん一人なら、送って行くよ。」 その瞬間、安西くんのその言葉は、私の心の中の何かを燻らせた気がした。 「危ない。」 ゴォ…と音をたて、車は勢いよく 私達の横を走って行った。 ーー安西くん、いつの間に車道側に行ったのかな……すごい紳士的……。 「安西くん、ありがとう。 あの……駅まででいいよ? 電車乗る方向違うんだし……。」 「いいよ別に。 こんな暗いし、危ないよ。」 暗い夜道だが、安西くんが優しく笑ったのを私は見逃さなかった。 ……本当、どこまで優しいんだろう、安西くん。 前を向くと、もう駅の近くだった。 定期券出さなきゃ…… そう思ったとき、安西くんは一言呟いた。 「佐伯さんてさ、 いつも無理してない?」
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