第一章

9/15
前へ
/83ページ
次へ
「ーーえ?」 「いや、佐伯さんっていつも派手な女子といるじゃん。 けど、無理してるように見える、っていうか……」 無理してる、……か。 私は親指をキュッと握りしめ、笑った。 「ーーそう? 私、無理したことなんて全く無いよ。」 安西くんは少しビックリしたような顔をし、すぐに真剣な眼差しに戻る。 「……顔、笑ってないよ。 本当の佐伯さんはそんなんじゃないでしょ。」 ーーっ。 鋭くて、でも優しい……その眼差しは、私にとってーー怖い。 「俺に、本音ぶつければ。」 ーーやめて。 私の心に、優しく、強く触れないで。 本音なんて、……いつからか、出し方は忘れてしまったのーー 「もう、いい。」 だから、 ーー無理やり引き出そうとしないで。 私はもどかしい心を抑えながら、走って、電車に駆け込んだ。 切ない表情で私をただ見つめ、立ちすくむ姿が、段々と遠ざかった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加