1章

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午後9時 カチャリと、俺以外には誰も残っていないフロアーにenterキーの音が溶けて消える。 パソコンの画面がシャットダウンし、電源が消えた事を確認し、ひとつため息をつく。 チラリと奥の壁に視線をやり、またひとつ、ため息がもれる。 先月の営業二課個人成績表。 その1番高く伸びた線の下に『課長・早坂雅人』の文字。 左に貼られた、上旬を過ぎた今月も似たような、まだそれぞれ低いグラフ。 よく伸びた自分の成績を眺め、こめかみを押さえた。 デスクの上に置いていた手帳を確認すると、今月中には契約が交わされる案件が、すでに数件予定されている。 グラフはまだまだ延びそうだ。 まったく、厄介な事になった。 ブブブブブブ ジャケットの中で震える携帯を取り出し、ディスプレイを一瞥し 『宮下希美』 再び息を吐く。
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