1章

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急な商談が入らなければと承諾し、短いやり取りをしてから、それじゃまたと通話を切ろうと耳から離すと  『…あの!』 通話口からは普段の彼女からは想像できない大きな声が漏れた。 このまま聞こえない振りをして、切ってしまいたい。 しかし、勇気を出したであろう彼女が不憫に思えた。 …きっとあの事だろう。 希美にとっては大事だ。 俺も放置しておけない問題だしな…。  「どうした、希美?」 分かってはいるが、気付かない振りをして、優しく訪ねてみる。  『えっと、その!』  「…うん」  『…今朝、父が言っていこと、です、けど…』 俺の口調に勢いを削がれ、尻すぼみになってゆく。  「それはまた、土曜にでもはなそうか。宮下常務の様子じゃ… 電話で済ませる話じゃないだろ?」 消え入りそうな声で、はいと呟く。  『ごめんなさい…おやすみなさい…』  「…おやすみ」
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