55人が本棚に入れています
本棚に追加
急な商談が入らなければと承諾し、短いやり取りをしてから、それじゃまたと通話を切ろうと耳から離すと
『…あの!』
通話口からは普段の彼女からは想像できない大きな声が漏れた。
このまま聞こえない振りをして、切ってしまいたい。
しかし、勇気を出したであろう彼女が不憫に思えた。
…きっとあの事だろう。
希美にとっては大事だ。
俺も放置しておけない問題だしな…。
「どうした、希美?」
分かってはいるが、気付かない振りをして、優しく訪ねてみる。
『えっと、その!』
「…うん」
『…今朝、父が言っていこと、です、けど…』
俺の口調に勢いを削がれ、尻すぼみになってゆく。
「それはまた、土曜にでもはなそうか。宮下常務の様子じゃ…
電話で済ませる話じゃないだろ?」
消え入りそうな声で、はいと呟く。
『ごめんなさい…おやすみなさい…』
「…おやすみ」
最初のコメントを投稿しよう!