1章

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お疲れ、と営業や企画のメンバー等と言葉を掛け合いながら充足感を味わっていると、誠司さんがが近づいてきてこっそり耳打ちをする。  「一次会が終わったら連絡をくれ。たまには一緒に飲もう」  「社長はいらっしゃらないんですか?」 相手のトーンに合わせて声量を潜めると、ニヤリとされる。  「私が行ったら、羽が縮こまるだろ? 威圧的な幹部連中を連れて別の店で打ち上げする予定だよ」  「人が悪いですね。ここでは反応に困る発言ですよ …まあ、終わったら連絡しますよ」 後でな、と残し彼曰く『威圧的な幹部連中』を引き連れて会議室を後にした。 ―――――――――――――――――――――― 我先にと両隣を陣取る女性社員のノースリーブシャツから覗く二の腕が悩ましい。 積極的にアピールされるのはかまわないが、禁欲生活が続いた体には少しキツい。 纏わりつく相手をやんわりと引き剥がし、隅による。 よく打ち上げで利用する会社近くの創作居酒屋は様々な料理に合わせて酒の種類も豊富だ。 新しく入った日本酒を飲みたい所だが、この後を考え、乾杯のビールを飲み干し、サワーでやりすごす。  「かちょ~ぉ、マジ凄いっすね!」 後ろから、開始1時間ですでに出来上がっている営業の若手、沢谷が絡んでくる。 さっきまで一課のヤツ等に結構飲まされてたな…  「ん、なにが?」  「相変わらずモテモテだし、さっきなんか社長に話しかけられてたじゃないっすか!身内って噂マジなんすか?」 隠しているわけじゃないが、こうはっきり聞いてくるのも珍しいな。  「ああ…そのこと。まあ、そんな感じかな」  「そんな感じって。それにほら…あの娘」 沢谷の視線の先を追うと総務の女子社員達。 目が合うと、嬉しそうに『早坂かちょ~う』と手を振る集団の中に、1人顔を真っ赤にして、慌てて俯く娘がいる。
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