1章

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 「あの真っ赤になってるの、今年入社した宮下常務の娘さんの希美ちゃん。 さっきから、早坂課長のことチラチラ見てましたよ」 確かに、先程から視線を感じていた。 総務に顔を出す時も、宮下希美は似たような行動をしていたな…  「あの娘、絶対課長のこと気にしてますよ。分かりやすすぎ。 真っ赤になっちゃって、初々しくって可愛いっすねぇ~。さすが今年のトップ」 毎年、新入社員で一番人気は、隠語の様にトップと呼ばれる。 本当に投票する訳ではないが、まぁ社員の多い会社じゃどこでも似たようなもんだろう。 小柄で白い肌の彼女は、確かに可愛らしい顔立ちで、同僚達が色めき立っていたのも頷ける。 それにしても、沢谷も気づいたか… あれだけ分かり易く反応されたら当然か。  「社長の親族で、常務の娘さん手に入れたら出世コース真っ直ぐらっすねぇ~。 早坂課長!一生一生付いていきます!」 他の奴に言われたら嫌味に聞こえるが、イジラレキャラの沢谷だと平気だ。  「ふ~ん。お前…俺に付いてくる理由そこなんだ…」  「ちょっ、なっ、違いますよ! 同じ営業として尊敬してますって、マジで!」 わざと冷たい視線を投げれば、慌てて身ぶり手振りが大きくなるのが面白い。 いい意味で沢谷はムードメーカーだ。 成績も悪くない。 相手に不快感を与えない沢谷は、営業先でも好印象を受けやすい。 技術を磨けばまだまだ伸びるだろう。 入社2年で今回のプロジェクトに参加できたのは、持ち前の明るさと将来性を見込まれてだろう。 酔っぱらうと学生の様な口調になるのはご愛嬌だ。
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