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授業中で静まり返っている廊下で二人の靴の音だけが聞こえる。
この人も会長みたいにあんまり喋らないんだな…。
なんか緊張しちゃうじゃないか…。
「あ、そうだ。浪川くん、今更だけど名前教えるね。オレ、佐々木陽太っていうんだ。太陽って字を反対にして陽太」
会長で、自分が名乗っていないことを思い出したので話題になればと期待した。
「そっか。よろしく、陽太」
無理だった。
一度顔をこちらに向けたが、すぐに視線を前に戻した。
陽太はどうしていいのか解らず、俯いてしまった。
なんか嫌われてる?
オレ何かしたかなあ…?
はあ、とため息をつき俯いたまま歩いた。
「うおっ!?」
俯いたままで前を見ていなかったため陽太は何かにぶつかった。
よろけて後ろに倒れそうになる身体を、腕を引かれて抱き留められた。
恐る恐る見上げるとそこには浪川くん。
なんてこったい。
ぶつかったのも助けてくれたのも浪川くんということか。
「えっと…ごめん。ありがとう」
「気にしなくていい。それで、職員室は?」
「あ、えっと…」
気付ば目の前は行き止まりだった。
右か左かを聞いているのだろう浪川を見つめ、陽太はまた俯いた。
自信…ないなあ…。
実は陽太も来て2ヶ月なので、そこまで詳しくはないのだ。
それに、今は伊織もおらず、いつもとは違う道から来たため、少し戸惑っている。
「うーん…。右…です?」
「右だな」
「えっ!?あの…」
「なんだ?」
浪川に真っ直ぐ見つめられ、目を合わせてられず陽太は俯いた。
「…陽太?」
「ごめっ…ごめんなさいっ…!!オレ、自信なくって…。合ってなかったら…ごめんなさい…」
泣きそうになる陽太の頭に温かいものが置かれた。
顔を上げると浪川は微笑んでいた。
「気にすんな。大丈夫、陽太なら大丈夫だ」
「うん…ありがとう」
陽太も微笑み返すと浪川は乱暴に陽太の頭をなでた。
会って間もないのに浪川くんは優しいな…。
陽太は浪川の手を両手で掴み、顔を上げてまた笑った。
そんな陽太に、浪川はまた乱暴に頭を撫でた。
顔を真っ赤に染めながら。
「あれ?浪川くんどうしたの?」
「何でもない…。あと、歩でいい」
「歩…くん?」
「歩」
「じゃあ…歩。よろしく」
「ああ、よろしく陽太」
そう言うと、ぐっと顔を近付け陽太の額に唇を当てた。
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