中途半端な転校生

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「陽太、好き」 「歩、もう悪乗りする意味はないぞ?」 生徒会に向かう道すがらの第一声が好きとはどういうことか。 イケメンの思考は理解できない。 「あ、そうそう。生徒会長にオレの名前教えないように」 「ああ、さっきの黒髪眼鏡か」 「お前も黒髪眼鏡だけどな」 かつらと伊達眼鏡だとは思うけど。 「それより…生徒会室になんで行かなきゃならないんだ?」 「オレには解らないよ…」 「陽太は行ったことないのか?」 「ないない。あそこに近付くのは親衛隊くらい」 近付いたら親衛隊に目を付けられるし、生徒会に関わりたくないし、用事もない。 場所は解るが実際に行くのはこれが初めてだ。 「陽太はオレが守る」 「何がオレを狙ってるんだよ」 「陽太はオレのだ。誰にも渡さない」 「さっきの悪乗りは継続中か」 生徒会室のある特別教室棟の3階は嫌に静かで、物音ひとつしない。 …怖ぇえ。 ここだけ別世界みたいだ。 馬鹿みたいなことを考えている内に生徒会室の前に着いた。 「…学校内?」 「頑丈そうな扉だな。オレの部屋と同じ防音防弾だろうな」 「お前の部屋は防音防弾なのか!?」 何故!?という視線を向けると首を傾げられた。 逆に何故?という顔だ。 「ここは金持ちが大半だろう。私怨だったり誘拐目的だったり他にも危険に晒されることが多い。だからセキュリティは万全に越したことはない」 「ああ…」 そういえばオレ以外は基本は金持ちだったな。 というか…オレだけじゃないか…? 川田もいおりんも高等部からの編入だけど、どちらの家もそこそこ有名だ。 まあ、川田は私情も入ってたと思うけど。 そもそもオレは何でわざわざ馬鹿高い金が掛かる此処に入れられたんだ? いくら頭が悪くても他に学校は何処にでもあったはずだし…。 しかもオレの家は母子家庭だ。 家にオレを此処に入れる金はない…はず。 ……でもまあ考えても馬鹿なオレに解るはずもないので、考えるのを辞めた。 「あれ?そういえば部屋が防音防弾ってことは歩も…金持ち?」 「ん、一応な」 一応、とはどういう意味だろう。 深い何かがあるのか。 「まず入ろうぜ」 「あ、ああ」 話を遮られた気がするけど、話したくないなら聞かないことにしよう。 そう思い、陽太は扉に手を掛けた。 ……そういえば、寮の部屋も防音だけど実は防弾だったりもするのか?
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