中途半端な転校生

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「えっと…生徒会長…です」 「オレは名前を言えと言ったはずだが?」 「オレなんかが生徒会長様の名前を言うなんて……えっと…恐れ多いっていいますか」 「何が恐れ多いだ。朝もさっきもオレを小馬鹿にした態度だっただろう」 生徒会長は立ち上がると陽太に近付いてきた。 身の危険を感じたので逃げようとするが手が捕まれたままである。 「おい、佐々木陽太」 「はぃいい!」 頭を捕まれ顔を上げられる。 ギリギリと手に力が篭っていき痛みと恐怖で顔が強張る。 「もう一度聞く。オレの、名前は?」 眼鏡越しに見える黒い瞳には好奇の色が浮かんでいるようだ。 これは解らないと気に入られるパターンだと川田に教えられたことを思い出す。 気に入られるなんてごめんだ! 思い出せ。思い出すんだ佐々木陽太。 オレのこれからの学校生活がどうなるかは今この瞬間にかかっている! 「わ、わかり…ますよ…。当たり前じゃないですか…」 引き攣った笑顔のまま見栄をはる。 たしか、普通の名前だ。 普通…普通。 山田、太郎。 いや普通じゃない。 逆に珍しい名前だ。 「…し、し…」 しから始まる名字でしから始まる名前のはずだ。 それだけは覚えている。 「ほら、早く」 「痛い痛い痛い!」 力が増し、陽太の頭がミシミシと音を立てる。 頭…割れる…! 「陽太から手を離せ」 「会長、め」 「会長ぉ…オレも陽太くん触りたぁい」 「この生徒会は馬鹿しかいないね」 会長と陽太以外の面々が好き好きに喋る。 特にチャラ男の近藤が、歩と駒沢を茶化したり、どうでもいいことを言ったり、会長に文句を言ったりしている。 会長はそんな近藤や駒沢、黒川、歩に言い返しながらも陽太から手を離さない。 陽太は涙をこらえながら必死に考えている。 黒髪で…、眼鏡で…、普通の名前。 それにツッコミ担当。 ハッと一人思い浮かび間髪入れずに叫ぶ。 「し…志村新八ィイイイイイ!!」 陽太の声が生徒会室にこだまする。 「はぁ?」 会長が陽太を掴んでいた手を離し、耳に持って行っている。 余程うるさかったのだろう。 陽太以外は耳を塞いでいる。 陽太はあまりにも切羽詰まっていたため、名前が合っているか考える余裕もなかったようで、言ってからハッと気付く。 あ、これ、眼鏡が本体の人や、と。 オレ終了のお知らせ。
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