Act.市ヶ谷晶良(いちがやあきら)

1/4
前へ
/348ページ
次へ

Act.市ヶ谷晶良(いちがやあきら)

「ヒャーッハッハッハ」  その声に僕は驚いていた。訂正、その場にいた全員が驚いていた。  鵡川が屋上から落ちて自殺したと思った瞬間、鵡川と僕たちの間に、突然、その笑い声の主が姿を現したからだ。  トランプのジョーカーにかたどられているような道化師姿の、男とも女とも判別できない体つきの人間。いや、人間かどうかも定かではないのかもしれない。とにかく色んな意味でわけが分からなかった。  大きく裂けた口元が開き、 「はじめまして、皆様」  ひどく不気味な声が、響いた。耳にではない、まるで頭に直接届いたようなそんな感覚だった。みんなも同じような感覚を抱いたのか戸惑っているように見える。 「僕の名前はジョーカー。さあ、ゲームを始めよう」  自己紹介をした道化師――ジョーカーは唐突にそんなことを言った。 「何を言ってるんだっ!」  思わず、そう叫んだのは隣にいた青磁(せいじ)だ。僕は唖然として、言葉すら失っていた。ほとんどの人がそうだろう。なのに青磁は声を出すことができた。正直にすごいと思う。 「今は鵡川を助けるのが先だっ!」  青磁は本気で鵡川のことを心配しているようだった。ほかのクラスメイトが動けないなか、青磁は走り出していた。語弊があるといけないので、言っておくけれど僕も鵡川のことは心配している。鵡川をいじめていた佐々木は、鵡川のいじめを青磁が知れば、介入してくるということを見抜き、青磁に見つからないようにいじめを行っていた。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加