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海神の音 ― 船長小説 ―
深く暗い海中に静かな音楽が響き、水泡が上へと昇る。闇が青空とカナダのロッキーの山々となり、そびえ立つ。男の声が響く。
「ライト ライト!」
「ああ。」
高い、雪の被さるビクトリア山々と青く広がるルイーズ湖。観光地の賑やかな、三角屋根に雪景色のレイク・ルイーズ町やバンフ町とは掛け離れた、湖に面する小さく静かなスプリング村。風なびくロッキー山脈の中、老若男女は穏やかに生きる。
青い湖のほとりの、一隻の小さい遊覧船に、還暦前の船長が村の子ども達にじゃれられていた。ブロンドの髪に薄い顎髭、目の下に軽い しわ があり、年齢より若く感じられる。
床屋の旦那、喫茶店の看板娘、釣り具屋の婿さん、酒屋の奥さん、小学校の先生が走り来て、床屋がライトを急かす。
「早く早く! お客さんのいない遊覧船で子どもと遊んでいる場合じゃない!」
ライトが苦笑った。
「失礼だな! 何かあったのか?」
「アメリカのKOS会社の方が来ているぞ! ライトに会いたいって!」
ライトは、ただ、聞く。看板娘が言った。
「KOS社ってあのクルーザー会社でしょ? クイーン・エリーネ号とか……各国の皇室やハリウッドスターもよく利用しているって。」
酒屋の奥さんが喜んだ。
「すごい! ……でも、なんでライトに?」
「いいよ、会わないから。」
皆がライトに驚く。
「え!」
ライトが、そっと横向く。
「会いたくない。」
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