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「その中に燃えるような赤髪の少女がいたようでございます」
「ッ!?それは確かかっ!!」
乱暴に立ち上がった拍子に椅子が派手に倒れた。分かりやすく男は取り乱していた。
「これをご確認頂ければ納得されるかと」
天井から一枚の紙片が降ってきた。空中を落下するその紙を男は掴み取ると無言で読んだ。
茶色く変色した紙は上等ではない安い材質を使っていることが丸分かりである。それでも紙に描かれた少女が、男の想定しうる最悪の人物だと断定できるくらいにはしっかりと写っていた。
ぐらりと男の巨体が揺らいだ。何とか台に両手を張り体勢を整える。
「それは魔術による写生で御座います。我らのような下賎な者には“あの方”のお姿など拝む機会は一度足りて御座いませんが───実に瓜二つでは御座いませんか?」
嗄れてしまうと声から性別を判断するのは難しい。天井から、壁から、床からどこから話しかけているのかも皆目検討つかない。
ただ男は、その奇っ怪な存在が持ち込む情報に関してはそれなりに信頼していた。だが、その耳障りな声が今は苛ついた。
「……殺せ」
「はい?今なんと仰られました?」
「主の命令は一度で聞き取れ“ミミズク”。殺せと言ったんだ」
「赤髪の少女を──“あの方”を亡き者にせよということで御座いますか?」
「それ以外に何があるっ!早く動け。暗殺は貴様らの得意分野ではないか」
「……はは、そうで御座いましたな。ですが案件が案件なだけに報酬は───」
これ以上ミミズクと会話を続けることに男は堪えられなかった。話を中断させるように腰に括りつけてあった布袋を上空に放り投げた。
「前金だ。成功したらその三倍を支払う」
「クヒヒヒヒヒヒこんな大金を──失礼致しました。確かに御依頼をお受け致しました。必ずや、よい御報告を致します」
下卑た哂い声を残してミミズクは音もなく部屋から存在を消した。
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