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破壊したい。壊したい。傷つけたい。苦しませたい。泣かせたい。苦痛に歪ませたい。衝動が一斉に男へ押し寄せ、野獣のような荒々しい眼光を背後へ向けた。
「ひっ!?」
男の嗜虐心を満たしてくれる玩具がそこにいた。
「慣れとは怖いものだ。如何に苦痛を与えても次第に反応が麻痺してくる。ならば“より痛みを増すしか”あるまい」
下僕の顔に恐怖が浮かぶ。過去の陰惨な責めを思い返しているのだろうか。
憂さ晴らしをしようと男は、下僕の髪を鷲掴みにし寝室へと引きずっていく。先に何があるのか理解しているくせに下僕は抵抗しない。
恐怖に顔を強張らせようと下僕は逃げられない。そう調教したのだ。男は邪悪な笑みを浮かべた。
今は嫌なことは忘れよう。この玩具とどうやって遊んでやろうか。それだけでいい。
狂気は蔓延する。
寝室に下僕の泣き叫ぶ声が響いた──皇国の長である第60代新皇帝セドリックは愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
声が掠れようと、幾度も許しを乞おうと狂気は治まらない。より高みへ登り詰めるだけである。
苦痛に歪む顔が、微かに掠れた色っぽい悲鳴が、喘ぎが、空虚なセドリックの心を満たしてくれる。
他者を傷つけ満たされる自分が狂っていることなどとうの昔から知っている。
だが、セドリックは止めない。止められない。世界が彼を狂わせるよう仕向けた。そう少なくともセドリックは考えていたからだ。
「キヒヒ……グヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャハハハハハハハハハハ!!」
狂気に歪んだ笑みがこぼれた。
セドリックと下僕の夜はまだ始まったばかりである。
そして皇国の物語も始まったばかりだ。
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