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【2】
田舎道を商人の馬車が疾走していた。整地されていないせいか時たま馬車の荷台が激しく上下する。
「畜生っ!何で盗賊連中がこんなところにいやがる!?」
馬車に繋がれた四頭の馬を操る男は呻いた。皇都で後継者争いが生じてから皇国領の至るところで盗賊や山賊が蔓延り始めたのは知るところであった。
しかし、このルートは盗賊が出ないはずだった。今まで一度も盗賊が現れていないと同業者たちからの情報である。
「俺じゃなくていいだろ……ッ!なんで俺の時に限って!畜生っ!」
運が悪いと一言で片付けられはしなかった。生活が懸かっているのだ。
荷台には客と荷が乗っているだけであるが、もしものことがあれば二度と商売を続けることはできなくなる。
それどころか盗賊によっては、捕まえた者を奴隷商に売りつける。または殺されることもあるらしい。
男は身震いした。
「嫌だ!死にたくないっ!」
だが、馬と馬車を捨てて逃げるわけにもいかない。生きる糧なのだ。生き延びたところで最終的に惨めな死を迎えることは目に見えていた。
「どうしてだよっ!ルドルフ五世皇帝が存命のときはこんなことなかったのに……ッ」
盗賊などいようものなら三騎士が派遣され一瞬で根絶やしにされていた。それが新皇帝に変わってから国は乱れ始めた。
焦りと苛立ちに男は悪態をつくしかない。国の事情を一民ではどうすることもできない。耐えるしかないのだ。暴風雨が通り過ぎるまで必死に凌ぐしかない。
だが、
「そろそろ追いかけッこはやめにしようゼ?オッサン」
馬車は囲まれていた。男は鞭を雨あられのように振るっているし、馬もそれに応えて疾走しているはずだ。
止まったわけではない。盗賊たちが並走しているのだ。
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