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「臨戦態勢ダ!」
騎乗していた盗賊が数人地に落ちた。何が起こったのか理解していない盗賊も、青年の声に武器を構えた。
男は背後を振り返って腰を抜かした。そこには槍を構えた鬼神──少女がいたからである。
「殺しはしないけど、痛い目にはあってもらうから覚悟しときなさいよね」
一歩鬼は踏み出した。男は情けない悲鳴を上げて荷台から転げ落ち、頭を強かに打ち付け気を失った。
「あらら死んでないよね……?」
僅かに気を配った少女であるが、自分達を盗賊へ売った不届きものだと思い出すと見向きもしなかった。
それよりも盗賊である。全ての元凶は彼らなのだから。
武器を構えた盗賊に尻込みせず、少女は荷台から飛び降りた。
「あ、おいっ!?」
近くに降り立った少女を捕らえようとした盗賊が打ち倒された。顔面に棒部分を叩き込むという凶悪な一撃は、体格差を埋めるに十分だったようで盗賊は一瞬で気絶する。
「な!このガキがっ!」
少女へ盗賊が殺到する。剣、斧、飛び道具何であれ少女を撃沈するに至らない。逆に盗賊が一人、二人と沈黙していく。
槍の動きは素早く、足捌きは鋭い。商人を襲う程度しかできない盗賊団には荷の重い相手であった。次々と薙ぎ倒されていく仲間を傍観しながら青年は何もしなかった。
最後の盗賊が地に倒れた。あれから数分と経っていない。少女は未だに動きもしない青年を見据えた。
「高みの見物のつもり?」
青年はそれに答えずに馬から降りた。表情は比較的、落ち着いてはいるが、やはりどこか奇妙であった。
「何?やる気になったわけ?いつでもボコボコにしてあげるけど」
高慢な態度を一度たりとも緩めない少女は穂先を青年へ向けた。
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