第一幕━散らばる意志━

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 青年は片手に握っていた槍を両手で支え構えの姿勢を取る。そして力強い眼光を放った。 「並外れた強さだナ。まさか年端もいかない少女に全滅させられるとは思いもしなかッた。けどサ、久し振りに血が沸き立つンだよッ!?」  槍を薙いだ。一度、二度、少女に匹敵する速さで槍が回転した。少女から嘆息が漏れる。 「弱い獲物を狙うことしかできないクズかと思ったけど、どうやらあんたは違うみたいね」  盗賊の青年以上に少女の瞳は爛々と輝きを増した。強者との戦いに熱を持つのは変わらない。けれど、その力を行使する対象は圧倒的に異なっていた。  普段、何を獲物としているかの違いである。その差が実力以上に戦闘の結果を左右することはままある。  槍と槍が打ち合った。どちらの武器も業物というわけではない。純粋な技の掛け合いとなりそうだ。  だが、そうはならなかった。青年の槍捌きは決して少女に劣るものではなかった。しかし、地へ倒れたのは青年の方である。 「ッくぁ……何でだヨ。俺と力の差はなかったはずだ。なのに何でこんなに一方的にやられるンだっ!?」  地べたに這いつくばりながらも少女を見据える瞳に衰えは見られない。だが、その立ち居ちが互いの差を如実に示していた。  名工に打たれた刀でさえ振るわれなければ錆びてしまうように、青年の技は完成されていたが決定的な何かが欠如していた。 「あんた自身分かってるんじゃない?盗賊に身を落とした時点で槍道を捨てたって。そんな奴が私に勝てるわけがない。あんたの槍は“戦う”ためじゃなく“脅す”ために遣われてきた。どう?勝てる道理があんたにあると思うの?」  辛辣な言葉。全てが青年も薄々感づいていたことだからこそ最も心を抉り取る。的確に相手の弱いところを突く才能もまた戦闘には役立つのかもしれない。
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