第一幕━散らばる意志━

11/53
前へ
/220ページ
次へ
 少女は振り返らずとも、そのふざけた物言いをする人物に心当たりがあった。まことに残念ながら旅の同行者だ。 「うるさいわね。私も泣かせる気なんて無かったのよ」 「それよりも片付いたみたいで何よりです。そんな泣き虫は無視して、先を急ぎましょう」 「──あんたの方が毒舌じゃない?」  ジト目で呟いた少女を無視して、 垂れ幕の中へ首だけを突っ込み何やら喋っている。外の状況を報告しているのか。 「あっ我が王っ!?」  荷台から若い男が緩やかに飛び降りた。そのまま泣きべそをかいている青年の前まで歩み寄る。 「君が盗賊の頭なのかい?」  優しくそう語りかけた。若い男に特徴らしきものはない。しかし、見た者を惹き付ける奇妙な雰囲気を纏っていた。  尋ねられた青年も、顔を歪めながらその姿を瞳に写した。その瞬間、青年は泣くのも忘れて呆然と彼の姿を見上げていた。 「ぁぁ……そのお姿は、マリモ隊長ではねェですかッ!?」  少女が無言でマリモと呼ばれた若い男を睨んだ。どういうことか説明を求めているのだ。  だが、マリモこそ分からない。明らかに自分を知っているようであるが、マリモは彼のことを知らない。 「すまないけど、僕は覚えがないんだ」  僅かに沈んだ表情を浮かべた青年であるが、すぐさま瞳を輝かせながらマリモを見返した。 「そうスか。でも仕方ないッス!昔に少しだけ“死に神軍”にいただけッスから」  その名を聞くとは思いもしなかったマリモは僅かに眉を潜めた。隊長と呼ばれた時点で怪しい臭いは感じていたが、まさか自身がかつて大戦で率いていた部隊の生き残りとは。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1891人が本棚に入れています
本棚に追加