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少女は振り返らずとも、そのふざけた物言いをする人物に心当たりがあった。まことに残念ながら旅の同行者だ。
「うるさいわね。私も泣かせる気なんて無かったのよ」
「それよりも片付いたみたいで何よりです。そんな泣き虫は無視して、先を急ぎましょう」
「──あんたの方が毒舌じゃない?」
ジト目で呟いた少女を無視して、 垂れ幕の中へ首だけを突っ込み何やら喋っている。外の状況を報告しているのか。
「あっ我が王っ!?」
荷台から若い男が緩やかに飛び降りた。そのまま泣きべそをかいている青年の前まで歩み寄る。
「君が盗賊の頭なのかい?」
優しくそう語りかけた。若い男に特徴らしきものはない。しかし、見た者を惹き付ける奇妙な雰囲気を纏っていた。
尋ねられた青年も、顔を歪めながらその姿を瞳に写した。その瞬間、青年は泣くのも忘れて呆然と彼の姿を見上げていた。
「ぁぁ……そのお姿は、マリモ隊長ではねェですかッ!?」
少女が無言でマリモと呼ばれた若い男を睨んだ。どういうことか説明を求めているのだ。
だが、マリモこそ分からない。明らかに自分を知っているようであるが、マリモは彼のことを知らない。
「すまないけど、僕は覚えがないんだ」
僅かに沈んだ表情を浮かべた青年であるが、すぐさま瞳を輝かせながらマリモを見返した。
「そうスか。でも仕方ないッス!昔に少しだけ“死に神軍”にいただけッスから」
その名を聞くとは思いもしなかったマリモは僅かに眉を潜めた。隊長と呼ばれた時点で怪しい臭いは感じていたが、まさか自身がかつて大戦で率いていた部隊の生き残りとは。
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