第一幕━散らばる意志━

12/53
前へ
/220ページ
次へ
「いや、待てよ。確か死に神軍の生き残りは僕だけのはずだけど?」 「それは……あの…死に行く仲間を救えない無力な己を鍛えるために夜逃げしたんス。それで今は皇国に……」  青年の瞳からさらに涙が溢れてくる。昔に抱いた意志を全うできているかと訊かれれば、否と答えるしかない現状が情けなくて泣けてきてしまうのだ。 「……大戦が終わって、死に神軍が隊長を残し全滅したのは風の噂で知ってたんス。隊長が功績を讃えられ王国の英雄になったことも。でも、俺はどうしようもなくて、盗賊になるしかなかったんス。死んだ仲間に申し訳が立たないッス!」  ポツポツと青年は語る。いつの間にか屈折してしまった己の生きる道を。  仲間を守るために求めた強さではあるが、得たときに守るべき仲間がいなかった。既に大戦は終わり、仲間は皆が戦死していた。  今さら王国へ帰る気力もなく、皇国で用心棒や護衛などをして生計を立てていた時に、この盗賊たちと出会ったと青年は言う。  最初は仲間になるつもりなどなかった。ただ護衛の同僚にボコボコにされる盗賊たちを見て不意に感じたらしい。  守らなければ、と。青年は同僚の彼らを槍ひとつで昏倒させ、ボロボロになった盗賊を助けた。それからなし崩し的に盗賊の頭にされた。 「何て言うか不器用ね」  青年の経緯を聞き、複雑そうな表情を浮かべた少女の第一声がこれだ。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1891人が本棚に入れています
本棚に追加